最近は、「父親の不在」状況が珍しくありません。相談に来られる方の中に両親が離婚されたため「シングルマザーの家庭で育った」方、離婚していない場合でも「父親は仕事であまり家にいなかった」方、あるいはご自身がシングルマザーの方などが多くおられるからです。
どれもやむを得ない事情ばかりですが、そうした「父親の不在」が子どもの精神面や自立面に影響を与えていることも実感します。

①母子の密着が長引きアイデンティティの獲得や自立が遅れる
子どもは母親の思考や価値観、さらに感情面まで同一化する可能性があります。
母親の思考や感情がダイレクトに子どもの中に入ってしまいやすく、無意識的に受け入れ自分のものであるかのように錯覚します。そうしたことが他人との関係においても起きがちになります。母親と同様、他人とも密着しがちで距離が取りづらい、あるいは逆に親密になることを避けがちになる場合もあると思われます。
 
成人してからも母親の考えや価値観にこだわり、母親と同様の未来を無意識的に描く可能性があります。父母の離婚という体験によりショックやダメージを受けていれば、自分の将来に希望が持てないと感じる場合もあります。
  
母親との密着が続くということは、母親に支配され影響を受ける状態が続くということであり、結果的に子供にとっていわゆる「毒親」の要因となる可能性もあります。

②社会における適応に影響する
父親は、母子の安全を守り社会における制限やルールを体現する人であり、母親にはない存在感や威厳を示し、また子どもに試練を与える人でもあると捉えられます。

そうした「父親の不在」は、子どもにとって心理的、社会的な安心感や安全感を欠く状態となり、学校や社会といった外の世界へ踏みだすことに不安や恐れを抱く要因となり得ます。学校や社会に踏み出した後もストレスを抱えやすく適応が難しくなるのは、父親との体験の乏しさや心の中に残された父親像の悪さが影響するためと考えられます。

父親の存在があっても、不在がちである、あるいは子どもに無関心、また家庭内で無力であったり弱々しい存在であったりすれば、父親として機能不全の状態であり、父親不在と同様のことが起きかねません。

一方で厳しすぎる場合についてもやはり、自分について否定的であるとか周囲の目を気にしがち、完璧を求めがち、といった傾向を帯びる場合があります。父親が粗野で荒々しく暴力的でDV傾向がある場合は、当然子どもへのネガティブな影響は大きくなり、将来父親と同様の傾向を帯びる可能性もあります。

父親として適切な機能を代替できる存在があれば、大した問題は生じない可能性があります。

以上のように、「父親の不在」は子どもが自分を確立することや社会に踏み出すことにおいて、ネガティブな影響があると捉えられます。  

一方で、「母親の不在」の影響もあります。父親が母親の代わりをすることは生物学的にも困難であると捉えられており、子どもに愛情を示すこと、しつけをすること、また関わる時間等がどうしても不足しがちになります。すなわち、「父親の不在」より「母親の不在」の方が、愛着の形成面において深刻な影響があり、子どもの精神に長きにわたりネガティブな影響をもたらすことが予想されます。母親についても、その適切な機能を代替できる存在があれば、大した問題は生じない可能性があります。

完璧な親を目指す必要はなく、それは不可能でもあります。子どもにとって、「良い体験」すなわち自分は愛され大切にされたのではないかという体験が、「悪い体験」すなわち自分は愛されなかった、否定されてばかりだった、生まれてこなければよかったと考えてしまうような体験より、割合的に多いということが、養育の適切さの目安になると考えられます。

「父親が不在」あるいは「母親が不在」であることについて、ご自分やお子さんに関して気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。これまでの人生を振り返り、ご自身やお子さんにどのようなことが起きたかについて改めて整理し理解を深められると、感情面の折り合いがつき、さまざまなことが良い方向へ変わっていかれるのではないかと思います。