カウンセリングの回数をある程度重ねていただいても、不快感や嫌悪感につながる過去や現在のネガティブな体験、あるいは未来に対する不安感について繰り返しお話をされるだけで、ご自分や他者についての理解が積み重なっていかない方がいらっしゃいます。話は広がる一方でつながらないため、ご自身のストーリーにはなっていきません。
カウンセリングが深まらないのは、意欲やモチベーション、内省や洞察力の不足といったご本人の内的要因だけではありません。
例えば、深刻な精神状態にある方は、まず生きていくことが優先されるでしょうし、自閉的な発達特性が強い方は、意欲やモチベーションはあっても内省や洞察が苦手といった生得的な要因があります。そのことは承知できますので、その方の目的とペースに合ったカウンセリングを心がけることができます。
一方で、そのどちらでもなく、お話しされることは毎回同じようなことで、そのときご自分はどう感じたか、どうされたいか、どうなりたいか、といった問いかけにはほとんど答えていただけず、ご自分が事実と思われる出来事の詳細についてのみ話して帰られます。伝えたいことがあるのだなということはわかりますので、あなたの気持ちは~ですか?~になるといいのですか?~を求めているのですね?と伝え返しをしても、「普通は~ですよね」「大人なら~ですよね」といった他人事のような抽象的な表現で終わってしまい、ご自分がそれをどう体験したのか、その時どう感じたかといったご自身の内面についての言語表現はなかなか出てきません。
カウンセリング当初は、カウンセラーへの信頼感、カウンセリングに対する安心感や安全感が十分ではないでしょうから、問題の核心やご自分の本音に触れることができないのは無理もないことだと思います。しかし、一向にそこに意識が向かないのです。抵抗や否認でもありません。
このような傾向の方、つまり「感情や気持ちを聞かれてもわからない」という方は、「アレキシサイミア」といった心理的特性が疑われます。
「アレキシサイミア」は、自らの感情の認知とそれを表現する言葉を持たない状態を指し、「失感情症」「失感情言語化症」「感情言語化障害」といった訳語が当てられてきました。
このような特性の方は、ストレスを感じにくく、例えば慢性的な抑うつ状態に悩んで来られた方であったりします。あるいは、ストレスの影響で身体に不具合が出てしまう疾患=心身症で長く苦しんで来られた方も多くいらっしゃると思われます。例えば気管支喘息、過敏性腸症候群、アトピー性皮膚炎、メニエール症候群、関節リュウマチ、片頭痛、自律神経失調症、月経困難症、起立性調節障害等があげられます。「感情や気持ちがわからない」と同時に身体感覚についても気づきにくい場合があるのではないかと思います。
子どもの頃から生きていくことが最優先で必死だったがために、感情や気持ち、また身体感覚に気づくことが二の次になってしまった可能性があるのかもしれません。
アレキシサイミアについては、幼少期の養育者とのネガティブな体験や関係性により生じた情緒的応答性の障害であるといった捉え方があります。また、脳の機能上の障害、遺伝的要因や生活習慣、教育や知能程度の関与等により生じたという捉え方もあります。
ご自分の感情や気持ちがわからないということは、他者の感情や気持ちもわかりづらい、想像や推測も難しいということになります。すなわち、人と深く親密に関わること、対人関係を築き関係性を深めていくことに、ずっと困難があったのではないかと考えます。それと同様のことがカウンセリングでも起きてしまいがちで、治療に必要な人間関係の発展になかなか至らないのかもしれません。
心当たりがある方は、無理をされず心療内科や精神科を受診していただけると良いかと思います。
カウンセリングは、ご自分を変えていきたい、良くなりたいといった意欲とモチベーションに加え、心身のエネルギーが必要な作業でもあります。もともと不調を抱えておられると、カウンセリングによって一時的ではあってもさらに不安定になられる場合があります。まずは症状や状態をやわらげていただき、気分が安定された後、カウンセリングをご利用いただけると良いのではないかと思います。
安全感を促す支持的なカウンセリングにより、少しずつご自分の内面に触れていくことができれば、心と身体の良好な変化を感じていただけるのではないかと思います。
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